ホットモヒート

モヒートといえば夏のカクテルですが、モヒートを冬バージョンにアレンジしたホットカクテルです。

メーカーさんの企画で試しにやってみたら、これは旨いし、ネームバリューがあるからお客様も興味を持ってくれやすい。
「ええっ、なにそれ」とも言われますが、そんな事言われるのは慣れっこです。


オーダーされた方、皆さん「おおっ、これは確かにモヒートの味だ」と言われます。
調べたら、結構前から出しているお店は出していたんですね、僕のアンテナの感度不足でした。


もちろん僕なりにアレンジしたものも出してます。
ジンジャーエールを煮詰めて使う、「ホットジンジャーモヒート」。
裏メニューですので、興味をもたれたら、忘れ去られないうちに是非お試し下さい。

マンハッタン

スタンダードカクテル「マンハッタン」
もう鬼籍に入ってしまった先輩バーテンダーは、このカクテルを好みませんでした。「ニューヨークは、つらいだけだった。」若かりし先輩は、修行の場として、ニューヨークを選び、3年間、酒と英語とスペイン語と闘っていたのです。

そんな先輩と最後に酒を酌み交わした夜、先輩は珍しくマンハッタンを注文しました。「これを飲むと、3年間が幻ではなかった事を知るんだ。」逃げたいのか、逃げたくないのか。忘れたいのか、忘れたくないのか。5年前の自分には理解する事ができませんでした。

「マンハッタン」のネーミングには諸説あり、中でも、イギリスの首相だったウィンストン・チャーチルの母親が「マンハッタン・クラブ」という店でふるまった酒だったからという説が有名ですが、夕日の様な「マンハッタン」の色は、自分にとっては、先輩の横顔のイメージなのです。

カクテルは、出会い方によって、まるであの頃を思い出してしまう「あの曲」の様に、それぞれのイメージを作れるのです。

これから少しずつ、そんなカクテルやお酒達を紹介させて頂くつもりです。少しだけ、おつき合いして頂ければ幸いです。

ジントニック

ジントニック

今までのツケで、カラダがけっこう傷んでしまっている私は、休み休み仕事をしなくては、到底もたない情けない事になっています。

ですので、バーテンダー1人では、メニューさえ作れないのです。マネージャーにお願いをして、バーテンダーの仕事を2人の社員さんにおぼえてもらっています。生意気にカクテルなんかを教えています。最低限必要な「作業」をおぼえてもらいながら一番大切な「なぜ、それを、そう作る」を教えさせてもらってます。カクテルは、バーテンダーの技や知識を見せびらかす為に作るものではないのです。お客様が求めているものを探し出し、飲んでいただくものなのです。

今は、兎にも角にも「ジントニック」ばかりを作ってもらっています。ジンとライムとトニックウォーター。「なぜ、そう作るのか」ばかりを問いかけて作ってもらっています。

先日、休日の夜にバーに顔を出し「ジントニック」を作ってもらいました。その「ジントニック」は、彼のやりたい事が解る、私の為の「ジントニック」でした。まだまだ、沢山のカクテルを作る「技」は少ないのかもしれません。でも、その「ジントニック」は、あのホテルで飲んだカクテルとは比べ様がない程の、素晴らしいカクテルでした。

彼にとっての「ジントニック」が、「今」を思い出すカクテルになってくれたらいいなぁ。

今日からブログで毎日のbarでの出来事を呟いていきます。



いきなりですが、先日、お客様から、こんな質問を頂戴しました。

バーテンダーさんが行きたいバーって、どんなバーですか?」

本当は、こんな時、キチンと仕事してるなって、プロとして思うバーの名前を出すべきなのでしょう。しかし、毎度的はずれな僕は、

「バーはあまり行かないですね。大衆酒場で安酒をあおったりするのが好きなので、行きたい店と言われると、そんな店ばかり言ってしまいます。」

ほら、すごい的はずれでしょ? でも、これにも僕には言い訳の様な理由があるのです。

彼女が、バースデープレゼントだと、連れて行ってくれたのは、大きなホテルの夜景が見える最上階のバーだった。どうやら彼女は、カクテルに興味を持ちはじめた僕の為に、知り合いのバーテンダーにおすすめを聞いて、わざわざ予約をしてくれたそうだ。いつも行ってる酒場と違い、静かに酒をかたむける、品のいい大人達の場所だ。バーテンダーは皆、蝶ネクタイにオールバック。4~5人程のバーテンダーは、皆が皆メインバーテンダーに見える。ワクワクするというより、少し緊張した。差し出された、メニューにはカクテルの名前がびっしり。知らない名前ばかりだ。

「こういう時は、バーテンダーさんに任せたらいいみたいよ」

とまどう僕に気づいた彼女が耳うちしてきた。

「スミマセン、何かオススメのカクテルをください。」

「かしこまりました。」

バーテンダーは、笑顔でそうこたえると、すぐにカクテルを作りだした。目の前にあらわれたのは、キレイな薄むらさき色のカクテルだった。

「キレイね」

モスコミュールを注文した彼女は、キラキラした目で、そう言った。そうか、これがカクテルの世界か。いつも飲んでいるものとは違うな。

ワクワクしながら、一口すすった。なんだコレは。キツイし変に甘いし、まずい。

そうか、きっと僕の舌が悪いんだ。コレをうまいと思う人が、こういうバーに来るんだ。頑張ってクールに飲み干さなきゃ。まずいなんて、彼女にも悪くて言えない。

チビリチビリ口をつける俺をながめて

「私にも一口ちょうだい」

そう言ってカクテルグラスの足を持ち、一口すすった。

「これキツいわ。おいしくないし。」

シェイカーを洗い終えたバーテンダーが目の前にやってきた。

「いかがですか?」

笑顔というより、「どうだ俺のカクテルは」と言っている様に見えた。こういうときは、「おいしいよ」と言ってあげるべきなのかもしれない。いや、俺の未熟さをかくす為にも、そう言ったほうがいいのかもしれない。もう少しで、その言葉をはなとうかという時に、はっきりした口調で彼女が言った。

「私達には、おいしく感じません」

「そうですか」

感情的な部分を全て削り取った表情で、バーテンダーは、目の前から去った。

「ごめんね、もう出ようよ」

カウンターから立ち上がり、キャッシャーに向かった。バーテンダーは、僕達を見ると、何も言わずにバックルームへ消えて行った。後味が悪かった。僕が悪いのだろうか。自分の中では、この後味の悪さの答えを探し出せなかった。

「ごめんね、ありがとう。あのバーテンの態度に我慢してくれて。」

僕は彼女を、絶対に手放してはいけないと思った。

ホテルを出ると「どこか行きたい所ある?」と聞いてきた。そういえば、このホテルの近くに評判のもつ煮込みがある店があったはずだ。

「汚いオッサンだらけの店みたいだけどいいか?」

「あなたが行きたいならいいよ。」

大人の熱気にあふれた酒場では、哀しみを知っている、絶望の覚悟を固めている、しなやかな男達がいる。魂に筋肉をつける為にホルモンを喰らい、ガソリンを入れる様に酒をあおっている。

若い僕と彼女は、そんな男達に酒や食べ物や、飲み方を教えてもらいながら、しなやかな大人達との時間を過ごした。

それからしばらくは、バーのカウンターに、あこがれを抱く事が出来なかった。男達に酒を教わり、その延長で、そのバーのカウンターに座るまでは。

そのバーでの出会いが、バーテンダーを目指すキッカケとなり、今も大切にしているものを抱えるスタートになるのですが、その話は、一言では済み様がないので、又の機会に。

申し訳ない話なのですが、私にとって、本当に行きたいバーは、実はそのバーだけなのです。もちろん、素敵なバーも沢山知りました。素晴らしいバーテンダーさんも沢山いらっしゃいます。

でも私にとっては、あのバーだけなのです。

そして、今でも私は、魂に筋肉をつけたいが為に、酒場を求めてしまうのです。これが、長い長い言い訳です。